AVにおける映像審査、その過去、現在、そして未来

さて、前回はAV新法にまつわる話題を解説しましたが、今回はその根本にある「そもそもAVはなぜ合法なのか?」という問題に切り込んでいきたいと思います。

◆AV業界では古くから自主規制が行われてきた!

私がソフトオンデマンドの子会社で『出るまで待てない!(現・月刊ソフトオンデマンド)』という広報誌を制作していたのは、およそ15年前。

実は、広報誌といいながらも、当時は出版コードなるものを取得していなかったので、「DVD扱い」としてショップに展開されておりました。そんな事情から、発売するためには審査団体の認可を得なければならず、印刷する前に団体の事務局まで持ち込まねばなりませんでした。新中野から新高円寺までチャリを飛ばしたっけ。

当時、ソフトオンデマンドは「メディ倫(正式名称:メディア倫理協会)」という団体に審査を依頼していました。この審査が面倒くさいのなんの。基本的にはモザイクの濃淡をチェックし、「もう少し濃くしろ」と文句を言うのがミッションだったのですが、ときには企画内容にまで口を出してくることがあったのです。それによって発売できなくなったAV作品は数知れず。若く、尖りきっていた私は何度担当者とケンカしたことか…。

ただ、メディ倫というのは、そもそもソフトオンデマンドが有識者や第三者を呼んで設立した“自主規制”団体にすぎず、法的な規制や罰則はありません。

このようにAVは、メーカーや業界団体の自主規制によって、モザイク処理などが行われ、それぞれの基準によって審査されてきました。

モザイクのほかにも、「中学」「高校」など未成年であることを具体的に示す言葉や、強姦・レイプなど公序良俗に反するような言葉はタイトルに使用できなくなっています。90年代は普通に使用されていましたが、審査団体の自主規制によって2000年代から姿を消しています。(それに近い企画は多数現存していますが…)

◆AVの自主規制が行われてきた歴史的背景

審査団体による自主規制が生まれたのは、1972年までさかのぼります。60~70年代にかけて日本ではブルーフィルムと呼ばれる非合法のポルノ映像が出回っていました。もちろん本番行為などはありませんでしたが、当局はこのフィルムの摘発と回収に躍起になっていました。

時を同じくして、日活などが中心にポルノ映画を作成するようになり、ラブホテルなどで流通。しかし、このポルノ映画がブルーフィルムと勘違いされたのか摘発の憂き目にあいました。

そこで、ポルノ映画を合法的に制作しようと、日活などのメーカーが中心となって、成人ビデオ倫理自主規制懇談会を発足。のちに日本ビデオ倫理協会(通称:ビデ倫)となって、ビデオ化されるポルノ映画を審査するようになったのです。

その後、ビデオデッキの普及に伴い、ポルノ映画ではないAVが急速に普及。各メーカーの作品をビデ倫が審査をするようになり、1985年にはビデ倫に加盟するメーカーが増え、レンタルビデオ店に並ぶAVは、大半がビデ倫審査を経た作品になりました。

90年代に至るまで、ビデ倫以外のいくつかの審査団体が誕生しましたが、いずれも短命で終わり、審査団体はほぼビデ倫が中心的な役割を担っていました。

◆ソフトオンデマンドの革命によって新たな審査団体が登場

1997年、AV業界の風雲児として勢力を拡大したソフトオンデマンドによって設立されたのが、先に述べたメディ倫です。のちに「コンテンツソフト協会(CSA)」と名前を変え、2015年まで活動していました。

新しい審査団体ができた理由は、実にシンプルです。ソフトオンデマンドを始めとする「インディーズ」と呼ばれた当時のメーカーは、ビデ倫基準の濃すぎるモザイクに反発していました。そこで独自の審査基準を設けて、モザイクを薄くすることに成功したのです。

このときに誕生したのが、現在のようなデジタルモザイクでした。以降、インディーズメーカーはビデ倫ではなく、メディ倫審査を受けるのが一般的になり、ビデ倫作品はモザイクが濃すぎるため、急速に衰退します。

その後は、DMM(現FANZA)や桃太郎映像出版といった各メーカーが審査団体を立ち上げ、それぞれの基準を設けて、自主規制を行うようになったのです。

ちなみに、ビデ倫は2007年にモザイクの審査基準を緩和しようとして当局に摘発されました。これは、スケープゴート的な摘発だったとされ、モザイクがどんどん薄くなる状況に警察が危機感を抱いたからだとされています。

メディ倫などが摘発を受けなかったのは、経産省の正式な認可を受けていたことなどが大きかったと考えられます。

◆AV出演強要問題で「適正AV」が誕生!

というわけで、現在も審査団体は複数存在しています。例えば日本コンテンツ審査センターや、配信映像審査ネットワーク(OCCN)などが挙げられます。コロコロ名前が変わったりしているので、非常にわかりづらいのですが、近年はある程度審査基準が統一されつつあります。

というのも、AV出演強要問題を受けて2017年に発足したAV人権倫理機構が中心となり、「適正AV」という概念が登場したからです。

AV人権倫理機構には、知的財産振興協会(IPPA)、一般社団法人日本プロダクション協会(JPG)、一般社団法人日本映像制作・販売倫理機構(制販倫)、第二プロダクション協会(SPA)、一般社団法人コンピュータソフトウェア倫理機構(ソフ倫)の5団体が加盟。2021年3月時点で、メーカー、プロダクション合わせて400社が参加しており、ほとんどのメーカーが所属しています。

適正AVに認定されるためには、これまでの映像審査だけでなく、プロダクションにおける契約から適切なプロセスを踏むことが義務付けられています。

特に従来と異なるのは、女優との契約に厳しいルールを設けていることです。日本プロダクション協会のホームページから一部引用してみましょう。

●金銭面の女優への開示
●二次利用報酬の支払い
●仕事の「強要」及び「不当な違約金の請求」は一切行わない
●女優の自己決定権を守るための「共通契約書」を使用する
●性感染症予防の一環として、AV作品に出演する出演者は「性感染症検診」を受ける
●出演者の申請で販売停止できる5年ルール
●面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化
●作品販売等停止申請の窓口設置(AV人権倫理機構)

これまでは、審査団体によるモザイクや作品内容の精査だけでしたが、AV制作にまつわる一連の流れを自主的に規制する流れが出来上がったわけです。

◆参加していないメーカーは「不適正」か否か

AV人権倫理機構は、「適正AV」の審査に属さないメーカーとの作品を明確に区別しています。ただ、所属していないからといって「不適正」だと一概に言えないのも事実です。

現在、AV人権倫理機構に加盟していないメーカーによって、「映像製作者ネットワーク協会(CCN)」が発足されています。この団体は、AV人権倫理機構とは異なる姿勢(非加盟だと適正ではないのか?という印象への抵抗)を見せています。

まだAV人権倫理機構並みのルールが設けられているわけではありませんが、この団体も女優の人権保護や違法コピーの禁止などを訴え、法令遵守の姿勢を打ち出しています。

ただ、こうした動きは、AV出演強要の被害者支援団体から「勢力争い」だとも指摘されています。いずれ統一されるかどうかはわかりませんが、長いAVの歴史では、いくつかの団体/協会が生まれては融合するということが常に繰り返されてきました。しばらくは意見や立場の違いが生じるのも無理はないのかもしれません。

◆AV新法によって業界の自主規制は水の泡に!?

さて、これまでざっくりとではありますが、AV業界が自主規制によって成り立ってきた歴史を追ってきました。業界が自主規制という方法をとってきたのは、警察当局による摘発を避け、いかに合法的にAVを発売するかという知恵として積み重ねられてきたものです。

その果てに行き着いたのがいわゆる「適正AV」です。所属していないメーカーらも団体を立ち上げ、女優の人権保護に乗り出しており、議論の余地はあるものの、業界全体に人権に対する意識が広まっているのも事実です。

しかし、こうした慣習や知恵を崩してしまったのが、今回施行された「AV出演被害防止・救済法(AV新法)」です。この法律による人権保護の観点は、すでに「適正AV」の中のルールで守られてきたものでした。

例えば、「適正AV」の決まりでは、すでに共通契約書によって、出演契約を結んでいました。ところが新法によって、「契約書面の交付から1ヵ月間の撮影の禁止」という条項が定められたことにより、中小メーカーは作品の撮影を中止せざるを得ない事態に陥っています。それに伴い、女優さんたちも相次ぐキャンセルによって職を失う事態にまで発展しました。(詳細は前回参照

AVを取り締まる法律や基準をつくるのであれば、どのようにAVが自主規制を設けて合法的に発売してきたかの歴史を辿り、実態に合った規制を設けるべきでしょう。

確かに被害者の救済は大切なことです。しかし、AV業界で働きたいという意欲がある人たちを保護する観点を大切にするならば、より業界の実態に即した法令にする必要があるのではないでしょうか。

配信サイト各社の対応の変化も

また、AVだけでなく動画配信サイトを運営する各社も自社での審査体制や基準を厳格化するなど、対応が変化してきています。

ちなみに「XCREAM R18」では法令順守を徹底し、販売作品のチェックを自社でも行っておりますが、上述した審査団体の審査も受ける第三者チェックを奨励しています。

ただ審査団体によっては会員からの紹介がないと入れないという条件や、審査団体の理事の審査に合格しないと入会すら出来ないという団体も少なからずあります。

これからメーカーを立ち上げたいという方にとっては困難なハードルになっていることも否めません。しかし、審査団体の中には制販倫などのように、紹介がなくても入会が可能できる団体もあります。なんと会費も月1万円のみ(!)。審査料金も比較的安い団体があるので、作品を制作したいという方は、出演者との契約も守って、第三者のチェックを受けるのが安心です。

上記審査団体に加盟することで一般社団法人日本プロダクション協会(JPG)や第二プロダクション協会(SPA)に所属しているプロダクションを通して、女優さんに出演依頼することもできるようになりますので、より円滑な制作ができるはずです。

AV新法で業界は対応にバタバタしている部分もありますが、一方で法制化されたことによって、法の下で適切に映像制作を行うルールが明確になったともいえます。これを機に、制作や流通に至るまで、しっかり対応することが大切なのかもしれませんね。